刑務所の職員が受刑者を呼び捨てにしてきた慣習を見直し、「さん」付けで呼ぶよう、法務省が運用を改めました。呼称の見直しを提言した第三者委員会の委員の1人、弁護士の土井裕明さんは、若い刑務官が高齢の受刑者を呼び捨てにしたり、かげで「やつら」と呼んだりしていたことに衝撃を受けたといいます。なぜ、「さん」付けにするのでしょう。受刑者本人が「自分の人生を大事にしてみよう」と思えるような環境づくりが大事なのだと訴える土井さんに、話を聞きました。
刑務官は収容者を呼び捨てに 逆は「先生」
――刑務所や拘置所に収容されている人を職員が「さん」付けで呼ぶよう、法務省が運用を変えました。きっかけは、名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行した事件です。呼び方を見直すよう同省に提言した第三者委員会で、土井さんは委員を務めましたね。
「ええ。知的障害のある人々などの刑事事件を多く弁護してきたので、そうした経験が注目されて呼ばれたのかなと思っています」 「委員会に参加し、刑務所で働く刑務官たちから聞き取りをして、驚きました。20代の職員たちが、父親や祖父の年齢にあたる受刑者たちを呼び捨てにしていたのです。陰で受刑者のことを話題にする際は『やつら』『懲役』と呼んでいました。逆に、受刑者が刑務官に話しかけるときには『先生』と呼んでいました。いずれも、一般的な社会ではありえないことです」
――どういう意識だったのでしょう。
「刑務所は収容者を懲らしめる場所だという意識が強かったのだと思います。収容者は悪い人たちなのだから苦しい思いをして当然だという思いがあり、二度とこんな場所には来たくないと思わせることが再犯を防ぐために必要だという意識もあったのでしょう」
「聞き取りの中では、収容者たちをさん付けで呼ぶことについてどう思うか、刑務官たちに尋ねる場面もありました。『個人的にはありだと思うけれど、自分だけがそんなことをするわけにはいかない』と理解を示した人もいましたが、『懲役のやつらはひどいやつらであって、おれたちとは違う』と難色を示す人もいました」
呼び方が映す「その人が相手をどう見ているか」
――そもそもの話を聞きたいのですが、呼び方はなぜ重要な問題なのでしょうか。
インタビュー後半では、呼び方が関係性を固定化させる危険性や、収容者を懲らしめるべき刑務所で「さん」付けはおかしいという声への反論が語られます。「おーい、お茶」という昔の流行語を題材に、呼び方を変えることが相手への尊重につながる可能性も。
「誰かを呼び捨てにしている…